放送法は憲法が定める「契約の自由に違反しているのか」が争点に
2016年11月2日、ある訴訟の審理が最高裁の大法廷に回付されたことで話題となりました。
その訴訟とは、NHKとの受信契約締結を拒否した男性に対してNHKが受信料の支払いを求めたものです。
これまでも、受信料の未払いをめぐって様々な裁判が行われてきましたが、今回の訴訟はもっと基本的な問題にまで焦点が向けられています。
つまり、今回争われているのは「テレビの設置者は受信契約をしなければならない」とする放送法64条(1項)の合憲性です。
男性側は、放送法64条は「契約する自由を制限しており違憲」だと訴えています。
最高裁大法廷は、憲法判断や判例変更を行うなど、重要な法律的判断がなされる場です。
大法廷への「回付」は、憲法判断や重要な法的問題についての判断を示す場合に行われますので、放送法64条についての初の憲法判断を示すことになるでしょう。
今年(2017年)中に判断が示される見通しですが、そうなれば、新たな判例として今後の受信料徴収方法に大きな影響を与えることになります。
「テレビの設置」でNHKとの契約義務が発生
これまで、NHKの受信料に関してのトラブルや問題はよくニュースになっていました。
さらに、NHKの受信料に関しては、「NHKを全く見ていないのにもかかわらず、受信料を支払うのはおかしいのでは」という意見が良く聞かれます。
では、結局のところ、NHK受信料の支払いというのは義務なのでしょうか。
これについては、実際、NHKについては放送法という法律によって、他の放送局とは違った特別な地位が与えられているのです。
放送法64条によると、「NHKの放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、NHKとその放送の受信についての契約をしなければならない」と記載された条文があります。
この条文を文字通り解釈すれば、「家にテレビを設置した」だけでNHKと受信契約を締結する法的義務が発生することになり、これによって受信料支払いの義務が発生するという関係にあるわけです。
したがって、NHKの担当者があなたの家を訪問した際、「テレビがある以上は受信料を払う義務があるんですよ」と説明を受けた方も多いのではないでしょうか。
それを聞いて、中にはやむなく契約書にサインした、という方も少なくないものと思われます。
そもそも契約は自由なのでは
とはいえ、法律の条文で契約締結それ自体を命じるはちょっとおかしいと感じるのではないでしょうか。
最初に挙げた訴訟でも、被告の男性はそれを争点としています。
放送法64条は、そうすべきだという訓示規定なので違反しても支払い義務はなく、もし義務だとしたら憲法が保障する契約の自由(憲法13条など)を侵害しており違憲だというものです。
そもそも、契約は自由なものです。
日本においては「契約自由の原則」がとられており、契約を締結するかしないか、誰とどのような内容の契約を締結するかは個々人の自由とされています。
CSやケーブルテレビなどの放送局の場合、自分のほしいサービスの金額を確認し、これに納得したうえで契約の申込をするのが通常です。
しかし、NHKの場合、放送法によって「受信設備(テレビ等)を設置した人すべて」がNHKと「契約を結ばなくてはならない」というように優遇されているわけです。
NHKとの受信契約が「義務」であるその理由とは
それでは、なぜこのような優遇措置がとられているのでしょう。
NHKは、Webサイト上で以下のような説明をしています。
『NHKは、受信機をお持ちの方から公平にお支払いいただく受信料を財源とすることにより、国や特定のスポンサーなどの影響にとらわれることなく、公共の福祉のために、みなさまの暮らしに役立つ番組づくりができます。(中略)学校放送、福祉番組、災害報道など、なくてはならない放送をお届けできるのも、受信料制度があるからこそです。』
つまり、放送法の制定の趣旨として、「公正・中立な情報を伝える役割を担う放送局として国民全体に役立つ」からということなのだということです。
さらに、NHK側は(テレビを破棄するなどして)契約の解約を自由にできることから「放送法は合憲」としていました。
これまでの裁判でも、地裁や高裁の判断では「契約の自由は制約するが、公共の福祉に適合している」など、放送法を合憲とする判決を出しています。
であれば、放送法64条の規定は「わたしたち国民がNHKの公共放送としてのあり方に納得し」、「その意思に基づいて」NHKを支えるべく契約を締結することが前提になっていると思われます。
したがって、受信料の負担はやむを得ないと国民が納得できるような、公共放送としてのあり方を維持する義務がNHKにはあるのです。
ただ、放送法64条に正当性があるとするためには、国民の理解や納得が必要となります。
今回、最高裁大法廷が放送法の合憲性に関して法律的な判断が示されますが、その後も放送法のあり方とNHKのあり方は、見直しを迫られる場面が出てくるかもしれません。